(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第十一話
『新・元帥ちゃん電話』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年12月25日(金)・天気・・・静かに降り積もる雪

 「ご主人さまー」
 俺を出迎えるリュースの声は、心なしかいつもよりはずんでいるようだ。
「ただいま、リュース。」
「ご主人さま、本当にお疲れさまでした。」
「ああ・・・今日からやっと冬休みか・・・」
 俺が7時半と言う早い時間に帰ってきたのは、そう言った訳だ。
「今日から、ずっとおうちにいられるんですね?」
「まぁ、親の手伝いを除けばな・・・って、何でそんな事聞くんだ?」
「はい・・・ご主人さまと、ずっと一緒にいられるから・・・」
「・・・あ、あぁ・・・」
「色んな技を覚えられるなぁって思いまして!」
「・・・・・・」
 前向きになったのは良いが・・・
「・・・まぁ、ほどほどにな・・・」
「?はい。」
 リュースにディバッグを預けて、とっとと階段を上がりながら俺は、
 「違う・・・何か違う」
 と思っていた。

 10日前の勘違い以来、リュースは着実に格闘ゲームを『身につけ』始めた。
 始まりは確かに俺の「格ゲーを身につけろ」と言う言葉だったのだが・・・俺は
「格闘ゲームに慣れておけ。」
 と言う意味で言ったのであって、決して
「格闘ゲームのキャラがやってる技を実演できるようになれ。」
 と言った覚えはない。
 全く。

 「やっぱり、波動拳も覚えた方がいいですか?」
「出るかっ!!」
 何だかんだ言って、結局こいつの技開発に付き合っている俺も俺だが・・・
 部屋の床いっぱいに格ゲーの攻略本を広げ、よさげな技を探しているリュースは本当に
 楽しそうだ。
「でもでも、やっぱり飛び道具系の一つは欲しいです。」
「んな事言ったって、波動も気も炎も扇子も手裏剣もせんべいも靴も硬球もバレーボール
 もサッカーボールも試験管もテニスボールもカエルも赤玉も白玉もちび子玉も出せない
 お前に、どうやって飛び道具を身につける事が出来るんだよ。」
「・・・そ、そうですねぇ・・・うぅーん・・・」
 頭を抱えて考え込むリュース。一体どんな思考を巡らせているのか知らんが・・・
「そうだ!ロケットブローならうてるかもしれません!」
 ・・・ろくな考えじゃなかったらしい。
「キ○イオーかお前は・・・」
 今度は俺が頭を抱える番だ。
「じゃあ、さっそく元帥さんにお願いして、腕部アクチュエーターに独立推進用ロケット
 を・・・」
「待て待て待て待て待てっ!」
 嬉々として電話をかけようとするリュースを羽交い締めにする。
「な、何を?」
「『何を?』じゃねぇだろ!」
 どこまで本気なのかと言えば、こいつの場合言動の全てが本気なのだから困る。
「そんな危険な改造してまで、飛び道具を身につけようとすんなっ!!」
「えぇっ・・・でも、牽制用にぴったりですが・・・」
「何を牽制するつもりだ!」
「当たれば倒れるし。」
「やめろ。」
「硬直も短いですし・・・」
「・・・だから?」
「Aボタン溜め押しで誘導弾になるんですよ!?」
「知るかーーーっ!!」
ぼふっ
「はうっ」
 勢いにまかせて、リュースをベッド上にほうり込む。
「いいか、リュース。」
「けほっ、けほ・・・は、はい。」
「元帥にそんな危険な相談はもちかけるな!」
「はぁ・・・」
「あの人ならどんな改造や機能付随も嬉々としてやりかねん!そんな危険な事をお前に施
 させる訳にはいかんのだ!わかったか!!」
「・・・はい♪」
「?」
 何嬉しそうにしてるんだ?こいつ。
「ご主人さまがそんなに心配してくれるのなら・・・改造は、絶対しません!」
「あ、あぁ・・・そうか・・・」
 いや・・・どっちかっつーと、俺が身の危険を感じたからなんだが・・・
「・・・とにかく、体を改造してまで強くなろうと言うのは間違っている。」
「はい。」
「あくまで自分自身の手で技を磨き、習得するんだ!」
「はい!」
「分かったな!!」
「はい、頑張ります!!」
 うむ、さすがは我が弟子・・・
「んが〜違うぅーーーっ!」
「ほへ?」
 これ以上リュースを格ゲーキャラにしてどうするんだ俺は!
「・・・まぁ、技を磨くのもほどほどにな・・・お前は格闘用じゃないんだから・・・な。」
「??は、はぁ・・・」
 俺の意図をつかみかねたのか、しきりにリュースは首をひねっていた。
 そんな時、
プープープーッ、プープープーッ、プープープーッ、
 枕元にある電話が、いつもと違うコール音を響かせた。
「何だ?」
「一階からの内線ですね。何かご用事でしょうか。」
「おいおい、勘弁してくれよ・・・」
 ぶつくさ言ったって、半ば居候状態にある今の俺では、親からの命令にあらがう術はな
 い。
 観念して受話器を取った俺は、なるべく疲れたようなふうを装ってやろう・・・と思って
 いたが、
「はい、・・・えっ?」
 事態は、俺の予想もつかない方向へ転がっていった。
「・・・・・・・・・リュース。」
「はい?」
 呼ばれるとは思ってなかったらしく、ぽかん、とした表情をするリュース。・・・無理も
 ない。俺だって・・・
「・・・お前のお姉さんが・・・来たぞ・・・」
「え゛!?」
 こんな事態は・・・予想していなかった。


               # # #


 「・・・いい天気ですねぇ。」
「雪が降ってますが。」
「そ、そうですね・・・お、お元気でしたか?」
「はい。」
「寒く・・・ないですか?」
「室温は適当です。」
 俺はぶ然とした表情をしながら、二人(二体?)のやりとりをベッドの上から見ていた。
「・・・・・・」
 俺の部屋で正座しながら向き合う二体のメイドロボは、着ている服にブレザーとセーラ
 ー服の違いこそあれ、容姿はとても良く似ている。
 おかっぱに近い髪型、
 短めな耳のセンサー、
 幼く、可愛い顔つき・・・その全てがうりふたつだった。違うところと言えば・・・着ている
 服と薄い紫色の髪、濃い緑色をたたえた瞳、
 そして・・・
「キャンビー、つったな・・・」
「はい、何でしょうか雨野さん。」
「・・・いや、何でもない・・・」
 これだ。
 この無表情さだ。
 この機械的な反応が、リュースとの最大の違いだ。
「寒い中のお届けもの、ご苦労様です。」
「仕事ですから。」
「お荷物、重くなかったですか?」
「DVD=RAM一枚と書類一枚は充分通常運用重量内です」
 万事この調子だ。
 おまけに(内容不明の)DVDはともかく、この「なでれ」と一言書かれた便箋は一体何
 なんだ?
 あいも変わらず元帥の意図を読むのは至難のわざだ。
「すっかり夜ですね。」
「そうですね。」
「日が沈みましたねえ。」
「そうですね。」
「西向きの海岸から見たら、お日様は水平線に沈んで行くんです。」
「そうですね。」
「そのまま海に沈んだら、海の水が熱くなってお風呂になるそうですよ。」
「いいかげんにしなさい。」
「そう、いい加減のお風呂なんです。」
「あんたとはやっとられんわ。」
 ・・・ひょっとして二人は・・・会話を楽しんでいるのかもしれない・・・
「それでは・・・」
 立ち上がるキャンビー。
「あ、もうお帰りですか?」
「はい。そろそろバスの時間ですから。」
 一瞬の躊躇も見せずにきびすを返す姿を見ると、本当にリュースの姉妹機なのか、と疑
 いたくなる。
 これが・・・普通のメイドロボの反応なんだ・・・分かっている。分かっているけど・・・
「・・・お元気で・・・」
 名残惜しそうにキャンビーの背中を見やるリュース。その切ない表情を見ているうちに、
 俺はいつの間にかリュースの肩をそっと抱いていた。
「・・・」
「あ・・・」
 階下からかすかに聞こえる姉妹の声に何を感じたのか、リュースの瞳のはしから大粒の
 涙が静かにこぼれた。
「・・・リュース・・・」
「あ、あはは、へ、変ですね、カメラアイの潤滑液が、漏れて、きて、」
 ブレザーの胸元をぎゅっとつかむ。
「何だか、き、吸気系にも、異常が・・・」
 しゃくりあげるように息をのむ。
 人間と変わらない心を持ったリュースは、感情表現も普通の人間と同じだ。
「・・・泣くな、リュース・・・」
「ご主人さまっ!!」
 俺の胸に顔をうずめて泣き続けるリュースは、呟くような声で言葉を繰り返していた。
「・・・思ったのに・・・」
「・・・」
「私と・・・一緒だと・・・思ったのにぃ・・・」
「リュース・・・」
「・・・思った・・・のに・・・」
「・・・・・・」
 リュースの中に溢れる哀しみ。
 俺は気のきいた言葉もかけられず、無言で泣き続ける少女を抱きしめ、頭を優しく撫で
 てやった。
 そんな事しか、俺にはできないから。
「・・・?」
 視界のはしに入ったDVDと便箋が、ここにリュースの姉妹が居たことを示す。
「ったく・・・」
 こんな物を届けさせるために、リュースを悲しませるなんて・・・
「こんな意味のわかんねぇ手紙・・・」
 「なでれ」
「・・・?」
 言われなくても、撫でてるよ。こいつを少しでも悲しませたくないから・・・
 「なでれ」
 ?
 「なでれ」
 ・・・ちょっと待て。
 「なでれ」
 誰を?
 「なでれ」
 ・・・・・・・・・まさか・・・・・・・・・
ばっ
「ひっ」
「リュース!」
 リュースの肩をつかんで、顔をのぞき込む。
「な、なんれふか・・・ごひゅりんはま・・・」
 涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔をハンカチで拭きながら、リュースは平静を取り戻
 そうとしている。
「まだ分かんねぇぞ・・・まだ!」
 憶測を告げるのももどかしく、俺は自分のジャケットとリュースのコートをハンガーか
 ら剥ぎ取って、玄関に向かった。
「ど、どうしたんですか?」
「いいからついて来いリュース!ひょっとしたら・・・」
 確信はない。だけど・・・
「ただ、お前を哀しませるなんて・・・そんなこと、あの人が絶対にする訳無い!」
 元帥とは、そう言う人だ。
「・・・死ぬほどまぎらわしい事はするけどな!!」


               # # #


 夜の闇の中、大通りに面したバス停の前でぽつんと立ち尽くす少女。
「・・・居た!」
 この時ほど、運行のルーズなバスに感謝した事はない。
「待てっ!キャンビー!!」
「?」
 少女が振り向くのと、遅れに遅れたバスがバス停に滑り込んでくるのはほぼ同じだった。
「・・・・・・」
 対応の必要無し。
 そう判断したのだろう、キャンビーは前に向き直ると、ゆっくりと歩を進めはじめた。
「まっ・・・」
 俺の後ろから聞こえる、
「待ってくださぁーい!」
 リュースの一生懸命な声。

 ぱしゅーっ
 バスのドアが開き、
・・・ぴた。
 キャンビーが一瞬だけ歩みを止め、
「・・・くっ!」
 俺の手がキャンビーの頭頂に置かれる。
 それは、ほぼ同時だった。

 なでなでなで

 ・・・ぷしゅーっ
 痺れをきらしたバスが、ドアを閉めて走り出す。
ぶろろろろろろろろろろろ・・・・・・
 そのディーゼルのエンジン音が強く降り始めた雪の向こうに消えた時、俺の掌の下にあ
 る頭がゆっくりと俺の方を向いた。
「・・・・・・」
 その瞳に写るのは・・・とまどい。
 間違い無い。こいつが・・・この子が・・・
「・・・あれ?げんすいさんじゃ・・・ない・・・あれれ?」
 リュースの姉妹機、『HM−12Cb・キャンビー』なんだ!
「あ・・・」
 キャンビーの反応を見たリュースは、口元に両手を寄せて喜んでいる。
「あれ?あなた・・・あなたが『ばりゅーすたー』ですか?」
「・・・わ、私は・・・」
 リュースの頬をつたう涙は、俺の胸の中で流した涙とは全く違っていた。
「HM−12V7・バリュースター・・・ご主人さまからもらった名前は・・・」
 涙をたたえた瞳が、にっこりと微笑む。
「『リュース』って言います。よろ・・・よろし・・・うっ」
 がばっとうつむいて、涙を振り払う。
「よろしくお願いします!キャンビーさん!!」


               # # #


 二、三言言葉を交わした時点で次のバスが来たため、リュースとキャンビーは充分に話
 が出来なかったらしい。
 でも、
 少し離れていた俺の所に走り寄って来た時、リュースの表情は嬉し涙でぐしょぐしょに
 なっていた。
「・・・ったく、紛らわしい・・・」
 キャンビーの頭を撫でる事で解除されたプログラムは、元帥曰く『猫っかぶりプログラ
 ム』と言うものらしい。
 感情が・・・正確に言えば、あの『KOKORO』と呼ばれるプログラムが・・・リュースた
 ちに搭載されている事を隠すための、簡易的なカモフラージュ機能なのだそうだ。
 キャンビーの持ってきたDVDをインストールすれば、リュースにもその機能が加わる。
 これが元帥からのクリスマスプレゼントらしい・・・が・・・
「ご主人さま・・・」
「・・・良かったな。」
「はい・・・」
 涙をふきながらうなづくリュース。
「あのスットコ元帥・・・殴り込んで簀巻きにして叩きのめしてやる!」
「そ、そんな、いけません。」
「いん〜にゃ、いっぺんあのちゅるぺた元帥をしばき倒さんと気が済まん!」
「ふえぇ、ぼ、ぼうりょくはんたぁーい。」
 すがるような目と組んだ両手が、いつもの調子に戻った印だ。
「あのなぁ・・・今回の『うひょー』をついたプレゼントで一番被害をこうむったのは誰だ
 か知っとんのか?」
「ご主人さまですか?」
「なんでやねん。」
「えーと、じゃあ・・・元帥さんですか?」
「・・・お前だ・・・」
 ・・・こんな奴にこれ以上プログラム入れても平気なのか・・・?
「確かに、さっきはちょっとびっくりしました・・・けど、私も、勝手だったと思いますの
 で・・・」
「勝手?」
「はい・・・」
 足元に視線を落としながら、寂しそうに呟く。俺は、こいつのそんな表情を・・・今、初
 めて見た。
「私とゼロチさんは、感情を持っています。でも・・・普通は、違うんですよね。」
「・・・ああ。」
 今回の元帥からのプレゼントは、リュースたちの心の存在が非合法である事の何よりの
 証拠だ。
 『この機体は、正当な手続きを以って貴方の手に渡った物では・・・』
 リュースを起動した時の言葉が頭をよぎる。
「私・・・本当は、廉価版のメイドロボ開発のために改造された、ただの実験機だったんで
 す。」
「・・・リュース・・・」
 不安げに漏れた俺の呼びかけに、それでもけなげに微笑む。
「色々な実験や、色々な検査をして・・・結局、コストダウン実験自体は良い結果をだせな
 かったために、私は・・・廃棄処分されて、解体される予定だったんです。」
「・・・・・・」
 心の傷の正体をせつせつと語る姿が、降りしきる雪の中にかすれそうになる。そのはか
 なさに呼ばれるように、俺の胸に締め付けるような切なさが湧き上がった。
「そんな時、元帥さんが現われて・・・私に『こころ』を下さったんです。」
 いつのまにか、その微笑みは温かいものにかわっている。
「・・・私は、忘れません・・・こころをもらって、初めて目を開けた時・・・今までただの空間
 としか思ってなかったところに、ただの『ヒト』としか認識していなかったものに・・・
 こんなに色々な意味がある事に、気付いた瞬間を・・・」
 瞳を閉じて、つぶやく。
「一生、忘れません・・・」
 一生。
 こいつの言う一生って、どんな意味なんだろう。
 壊れるまで?
 自我がなくなるまで?
 そのデータが消えるまで?
 どれも違うような気がする。
 そう、言うなれば・・・『心が死ぬまで』が、リュースの一生なのだろう。
 この切ない微笑みが、こいつの顔から消える時・・・それが、リュースが死んだ時なのか
 もしれない。
「元帥さんがどんな理由で私にこころをくれたのかは分かりません・・・でも、元帥さんは
 私に心をくれた人です・・・だから・・・」
 再び表情にかげりが見える。
「だから、私の姉妹にも、こんな気持ちをくれると思って・・・でも、そうですよね・・・そん
 な都合のいい話なんて無いですよね・・・そう思った時・・・」
 再び頬をつたうものがある。
「勝手に期待してた自分に気がついて・・・間違ってるって、分かってても・・・悲しくなって
 ・・・だから・・・」
「・・・・・・」
 ぼろぼろとこぼれる涙。
 だが、この涙は悲しいだけのものじゃない。戸惑いと、喜びと・・・そんな感情が複雑に
 入り交じった涙だ。
「キャンビーさんが、こころを持ってるって分かった時・・・嬉しくって、でも、自分が間
 違ってるから・・・喜んじゃいけないのに、私の口も、体も、止まってくれなくって・・・」
「リュース。」
 徐々に自分の中に入り込んでゆくリュースを引き止めるかのように、俺はリュースをし
 っかりと抱きしめる。あの時・・・リュースが初めて俺の前で自分の心の傷を話してくれ
 た、あの夜と同じだ。
 でも、今は違う。
 少しだけ・・・違う。
「ご・・・しゅじ・・・ん・・・さ・・・ま・・・」
「泣いていいんだぞ、リュース・・・嬉しくても、悲しくても・・・理屈なんか、考えなくてい
 いんだ・・・」
「・・・ふ、ふえぇ・・・」
「・・・いいんだ・・・」
「ふええぇぇん・・・・・・」
 泣き続けるリュース。
 抱きしめる俺。
 互いを求めるように寄り添う俺達は、そのまま言葉も交わさずに、互いの心を通い合わ
 せていた。
 リュースの戸惑い。
 俺の切なさ。
 きっと二人の心が完全に重なったのは、この時が初めてだったのだろう。
 この、聖夜と呼ばれる闇の中、
 静かに降りしきる粉雪の中で・・・


               # # #


 ぴろろろろ、ぴろろろ、ぴろろろ、
がちゃっ
「は〜い、私元帥ちゃん。あなただー・・・おわっ」
 受話器からけたたましい怒声が響く。
 しばらく怒声を浴びていた元帥は、怒声が一通り収まるのを待って受話器を置いた。
たぱたぱたぱ
「ご主人さま、どうしました?」
 ゼロチが元帥の顔を覗き込む。
「・・・『リュースに免じて電話で勘弁してやる』だか何だか・・・何が言いたいんだろうねぇ〜」
「さぁ・・・あ、それより、キャンビーさんが帰ってきましたよ?」
「よ〜し、んじゃ、パーティ始めっか。」
「はいっ!」
 元帥に寄り添って階段を下りるゼロチ。
 その後ろ姿は、これから始まる素敵な時間に『心』をはずませているようだ。



                              第十一話 END



次回予告・雨野
 やーれやれ、学校も無いってぇのに休む暇もありゃしない。
 おまけに予想外の出費をしなきゃならんハメに陥るし、幸先不安ってまっさっにっこの
 事だよな。あ〜あ、俺、幸せな東京ライフが出来るんだろうか?
 次回、メカ耳少女の居る風景『ショッピングは楽し?』
 ま、まぁ、あいつが居るだけでも・・・俺はさ・・・



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出費をしなきゃならんハメに陥るし、幸先不安ってまっさっにっこの  事だよな。あ〜あ、俺、幸せな東京ライフが出来るんだろうか?  次回、メカ耳少女の居る風景『ショッピングは楽し?』  ま、まぁ、あいつが居るだけでも・・・俺はさ・・・
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