(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第十二話
『元帥の野望〜全国版〜』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年12月27日(日)・天気・・・晴れ

 ガンメタルのオフロードカーが、駐車場の真ん中に止まる。
 軽とは言え、本格派の四駆オフローダーである俺の愛車は、前日降った雪をものともせ
 ずにこの地へと俺達を運んでくれた。
「わぁーっ大きいですねぇ・・・」
「・・・ああ・・・」
「どうしました?ご主人さま。お顔がすぐれませんが・・・」
「どうせ俺の顔はすぐれてねぇよ・・・」
「い、いや、あのっ」
 今更リュースの間違いをつっこむ気にもなれん。
ばんっ
 無造作にドアを開ける。
「・・・行くぞ。」
「あ、ま、待って下さいぃ。」
 一人で焦りつづけるリュースを尻目に俺は、眼前に立ちはだかる大型パソコンショップ
 へと歩を進める。
「まったく・・・とんだ散財だ・・・」
ウイィーン
 自動ドアの音が、妙に耳にのこった。


               # # #


平盛○○年12月26日(日)・天気・・・曇り後、雪

 「ふえぇーん、ご主人さまぁ・・・」
 居間のテーブルにオペレーション用のラップトップPCを置いて、猫っかぶりプログラ
 ムをインストールしようとしていたリュースが、情けない声を上げる。
「わはははは!おもしれー!!・・・ん?何だ?どうかしたか?」
 ソファーで『恋のように僕達は2』の芳右島さんの小説を読んでばか笑いしていた俺は、
 リュースの方を見ずに声をかけた。
「ディスクが読めませぇん。」
「ドライブはちゃんと接続したか?」
「はい・・・」
「ちゃんとドライブは認識してるか?」
「リムーバブルディスクの表示は出ました。」
「ディスク間違えてねぇか?」
「『僕の。えへっ♪』って書いてあります。」
 ・・・何だか。
「ディスクが変なんじゃないか?」
「それすら分からないんですぅ・・・」
「読み込まないのか?」
「あの・・・それ以前の問題で・・・」
「あぁ〜要領を得んなぁ!!」
「す、すみませぇーん。」
 同人誌を肘掛けに置いて、ずかずかとリュースの横に立つ。
「お前の事だからディスクを入れる方向でも間違ってんだろ。どう間違ったんだ?前後か
 ?裏表か?ひょっとして縦横を間違ったんじゃねーだろーな!?」
「ひいぃん・・・ちゃんと合ってますよぅ・・・ほらほら。」
「・・・どれ。」
 怪訝な表情をしながらリュースの手元を覗き込むと・・・
「ほら、入らないでしょ。」
 近くにあった新聞紙を丸めて、
ぱぐっ
「はうっ」
 リュースの頭を叩くまで1.2秒。
「DVD=RAMをZIPドライブに突っ込んで何をする気だお前は!」
「えぇっ、で、でも・・・」
がさがさがさ
 バ○オC1用のキャリングバックをあさる。
「CDとフロッピー以外のドライブは、これしかありませんが・・・」
・・・ばさっ
 同人誌が、まるで俺の愕然とした心を代弁するかのように落下した。


               # # #


ふたたび27日

 嬉しそうに広い店内を眺めているリュースと対照的に、俺の足取りは重くならざるを得
 なかった。
「・・・貴重なニューマシン用の費用が・・・」
「どうしました?ご主人さま。」
 俺の目の前をはしゃぎながら歩くこいつに、
 「お前の周辺機器のために、パソコンが買い替えられなくなったんだよ!」
 ・・・何て口が裂けても言えない。
「いや、何でもない・・・それより、外付けのDVDドライブ探してこい・・・」
「?は、はい!分かりました!!」
とたたたたたたた。
 リュースが軽やかな足取りで俺の視界から消えた頃、
「・・・ふぅ」
 ため息がひとつこぼれた。
「元帥め・・・俺が金欠学生だって知ってるくせに・・・」
 今、手元には10万程の金がある。大事な「ペンチ2マシンを購入するぜイェーイ」基
 金の一部だ。
 DVDも手に入れとけば便利だろうけど・・・今の俺には、あらゆるゲームをストレス無
 く楽しめる環境の方が必要だ。実際、現在所有しているパソコンのスペックでは、一般
 的なエロゲーの稼動にすら支障が出ている。
「はぁ・・・きついな・・・」
「ご主人さまーっ」
とててててててて
 向こうから足取りも軽くリュースがやってきた。
「・・・そうだな・・・」
 あいつの笑顔にはかえられない。
 例え最新のスペックを持つパソコンだろうが、どんなに多彩な機能を持つ周辺機器だろ
 うが・・・あいつの笑顔のように、俺の心を暖める事は出来ない。
「おう、見つけたか。」
 ならば俺のやる事は決まっている。全身全霊をかけて、こいつの想いに応えてやるまで
 だ・・・
「早かったな、リュース。いいのはあったか?」
「はい!一枚千円のZIPディスクが何と一枚三百円での期間限定ご奉仕・・・」
すっぱあん!
 良い音だ。
 とても手近にあったパンフレットで叩いた音とは思えん。
 広い店内にも、染み入るように響いている。
「ひいぃーん・・・」
「ZIPから離れろ!!」
 ひん曲がったパンフレットを戻す。(戻すな)
「・・・もういい、店員に聞いてみりゃすぐ分かるだろ。」
「はい。そ、そうですね。」
 頭を押さえながらひょこひょことついて来るリュース。格ゲー特訓が効いたのか、こう
 いった激しいスキンシップにも対応するようになってきた。
「いらっしゃいませ。」
 眼鏡をかけた、若い痩せ型の店員があいさつをする。
「ちょうどいいな。・・・すいません、ちょっと聞きたい事があるんですけど。」
「はい、何でしょうか。」
「あの〜外付けのDVD=RAMドライブが欲しいんですけど・・・置いてますか?」
「はい、ございます・・・」

 ・・・・・・

「そうですね、こちら等が良いかと思われますが・・・」
「う〜ん・・・・・・?」
 実物を見ながら使用機種や機能についての話をしているうちに、時々、店員の目がそっ
 ぽを向いている事に気がついた。
じーっ
「?」
 気付かれないように視線を追う・・・と、その先には。
「うわぁ・・・・・・・・・へぇ・・・・・・・・・」
 物珍しそうにショーウィンドーを眺めるリュースが居た。
 「この店員・・・リュースに興味をもってやがるな・・・」
 無理も無い。
 メイドロボが一般的になったとは言え、まだまだ完全な人間型のモデルは少ない方だ。
 その中でもリュースは、最新型の来栖川重工製メイドロボ『HM−12』型・・・少し事
 情を知っていてる者なら、興味を持って不思議ではない。
 ちょっと優越感。
「・・・お客様、あのメイドロボはお客様の物ですか?」
 物・・・
「ん、まぁ・・・そうですけど・・・何か?」
「いえ、良くカスタム化されているな・・・と思いまして。」
「あ、はぁ。」
「髪の色や瞳の色はともかく、センサーも小型に換装してありますね。」
「えぇ、まぁ、好みの色と形にしましたからね。」
 やべ。
 こいつマニアだよ。
 髪と瞳はまだ分かるとしても、センサーの長短なんて・・・俺ですら「そんな気がする」
 程度の認識しかなかったのに・・・
「いやあ、いいですね・・・カスタムカラーも、フォルムも、駆動性も・・・さすがは来栖川製
 って感じですね。」
「はぁ・・・どうも。」
「・・・でも・・・」
 眼鏡の奥の瞳が、怪しく光る。
「あのメイドロボ、なんだか人間臭すぎる気が・・・」
・・・ぢっ
「・・・・・・」
ふらっ
ばたーんっ!
「あ、あれ?」
 眼鏡の店員は、いきなり物語の核心を突こうとした瞬間に倒れた。
「どうしたんだ・・・」
「駄目です笹波さん。こんな所で寝ては。」
 黒い髪と、濃い灰色の瞳を持つメイドロボ店員が、倒れた男を担ぎ上げる。
「すみません、この人はよく貧血で倒れるんです。」
「・・・貴様も元帥メイドか・・・」
からーん。
 右手に握っていた何かが落ちる。
「・・・違うだよもん。」
 そう言って男を担ぎ上げたままマルチタイプのメイドロボは去って行った。
「動揺してだよもん星人になってるくせに・・・」
 ふと、床に落ちた黒いものに目をやる。
 物体の正体は、電気シェーバーの形に似せたスタンガンだった。電極の間を、無気味な
 音を立てて紫電が疾る。
・・・ぢっ
 さっきの謎のスパーク音の正体を知った俺は、背筋に悪寒が走るのを感じた。
「どうしたんですか?ご主人さま。」
 後ろから聞きなれた声をかけられて安堵した俺は、目の前で起こった現象を一生懸命脳
 内の記憶から削除した。
「ああ、リュース。実は・・・・・・」
「?どうしました?」
 振り返った瞬間、時が止まった。
 リュースの隣に居たのは、リュースに良く似たメイドロボ店員だった。
 髪は水色。
 瞳は赤。
 そして時は動き出す。
「・・・なぜ・・・お前が・・・ここに、居るんだ・・・」
「あ、あの、いえ、わたしは・・・い、いらっしゃいませぇ!!」
 水色の髪が一瞬だけぺこりと下がる。
「実はお客様!本日はダイナミックキャンペーン中なので、スズキジムニーJA30型と
 来栖川重工製メイドロボ『HM−12』を使用なさっているお客様に限り、なんと!な
 んと!ななななんとっ!!DVD=RAMを無料で差し上げる事になってまーすっ!!ど、
 どうぞ、お受け取りくださーい!」
 慣れない長ゼリフを見事に終えたゼロチは、俺にDVD=RAMの箱を手渡すと、ダッ
 シュで出口へ向かって行った。
がづんっ
「あぁうっ!」
 自動ドアが開く速度より速く通り抜けようとした結果だ。
「・・・・・・」
 残された俺は、結局散財しなかったと言う幸運を今一つ素直に喜べないでいた。
 それに・・・

「・・・違うだよもん。」

 あの見知らぬメイドロボの存在も、俺の心に不安の影を落としていた。
「ご主人さま。」
「・・・何だ?」
「親切な店員さんですねぇ。」
「・・・・・・」
 駄目だ。
 突っ込む気力も無い。


               # # #


 純白に染まったパソコンショップの駐車場の片隅に、赤の軽ワゴンが一台止まっていた。
「はうぅっ。ど、どきどきしましたぁ。」
「よしよし、ゼロチは良くやったよ〜」
 助手席に座るメイドロボ店員の頭を撫でつつ、元帥はエンジンを始動させる。
「いやいや〜それにしても、あいつも来てるとは遺骸、いや、意外だったねぇ〜」
「えっ?・・・あいつ、ですか・・・?」
「そう、あいつ。」
 雪の上を緩やかに発進するワゴンR。
 それを運転する男の口元には、不敵な笑みがこぼれていた。
「これで全員確認って感じだね。ふっふっふ・・・これからが〜本番だよ〜」



                              第十二話 END



次回予告・リュース
 色んな人に会いました。色んな事もありました。
 色んな事が重なって、今の私が此処にいます。
 だから、ご主人さま・・・今の私を・・・受け止めて下さい・・・
 次回、メカ耳少女の居る風景『巡る記憶の波の中』
 もっと色々な人に・・・会えるでしょうか・・・



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