(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景EX

Vol.1_03
『俺の憂鬱、先輩の優越』

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年6月13日(火)夜中・天気…やや曇り 新二号館13階1313号室



 夜闇の中、月の隠れた外を見つめるリュースの姿。
「わぁ、綺麗ですねぇ…」
 汚い都会も、夜景はそれなりに美しい。こいつが感激屋である事を差し引いても、暗い
 室内から眺める遠景のネオンはその言葉を証明していた。
 だが、俺はもっと美しいものを見つめていた。
「………」
きゅ
「あ………」
 不意に後ろから抱きしめられ、小さく声を上げるリュース。
「あぁ、綺麗だな…お前の、横顔は…」
「ご、ご主人さま?あの、その…私じゃなくって…」
「俺はお前が綺麗だと言ったんだ。マスターの言葉に異を唱えるのか?ん?」
「い、異論って…そんな…」
ぎゅ
 抱きしめる力を、少しだけ強くした。
「だったら、静かにしてろ…お前は、綺麗だ。他の何よりも」
「…あ、ありがとう…ござい、ます…」
 困りながら俺の腕にかけていた手が、ゆっくりと俺の手を包み込むようになる。
「………………」
 不意に後からかけられる言葉。
 俺はそれにため息をつきつつ、言葉を返した。
「お熱い所失礼しますって…いや、それはいいんだけどさ…」
ぐるり
「はわわわわわわ」
 リュースを抱きしめたまま、ぐるりと後ろに向く。
 そこに立っているのは、クリーム色のサマーセーターと紺色のスカート、そして漆黒の
 三角帽子とマントを身につけている芹香先輩だった。
「この部屋に案内した後、いきなり姿を消す…って言うのは、ちょっとやめて欲しかった
 なぁ。」
「………」
 先輩、ちょっとこまり眉。
「………………………」
ぺこり
「い、いや、謝らなくってもいいんだよ、けど、さぁ…」
 俺はリュースを抱えたまま周囲を見まわす。
「はうぅ、凄いですねぇ…」
 凄い。
 そりゃあ確かに凄いんだが…この怪しさは、ハンパでは無い。
さあああぁぁぁ…
 雲が晴れ、月光が室内に差し込む。
ヴウゥーーーーーーン…
 微かに響く、機械の駆動音。
 それは、この大きい教室のど真ん中に描かれた、これまた大きい魔方陣の五箇所に配置
 された機械から響くものだ。
 先輩の話によると、この装置が誤動作したために色々なものが出てきたらしい。
「…誤動作。ですよね」
「?」
 俺の問いかけに先輩は首を傾げた。
『これ…どう見たって、悪魔召喚用じゃねえか…』
 と俺は思ったが、あえて飲みむ。
 大体「これ」が正常に動いたから「あれ」が出てきた、と思うのが真っ当な神経ってモ
 ンじゃないか。それともあれか? 正常に動作した途端「あれ」よりも凄いのが呼び出
 されるとか…
「………………」
 機械の一つに繋がれたノートパソコンに、俺が持って来たDVDを入れて黙々と何かを
 (指一本で)打ち込んでいる先輩。
「ご主人さま? 寒いんですか?」
 首を後ろに倒して、俺の顔を覗きこむリュース。
「…別に寒くて震えてる訳じゃねぇっての」
 唯一人、俺だけが常識と言う細い紐にしがみついているような気がした。俗に言う「怖
 い考えになってしまった」ってやつだ。
「何か、怖い事でも考えちゃったんですか?」
「サトリって言う、人の心を読む妖怪がいてな」
「は!?」
「…いや、いい」
 意外とカンが鋭いのだろうか、こいつ。
「………………」
「そうそう、サトリって言うのは日本の山中に居る妖怪で、猟師が良く…って、先輩! 
 何やってるんですか!」
 いつの間にか俺の目の前に居た先輩が、妖怪の説明をはじめていた。
「………」
「…そう言う方面の話が好きなのは解ったから、先輩は作業しててくださいよ。な?」
「………」
こくん
 ちょっと残念そうにパソコンへ戻る先輩。
「…なんなんだ」
「ふえぇ、芹香さんはもの知りなんですねぇ」
「そうだな…しかも、あんな巨大な犬の化け物も倒す魔術まで知ってるなんて…」
 全く、凄い人が居たもんだ。しかもこんな近くに。
「………………」
「ふんふん、あの犬は黒犬獣(ブラックドッグ)と言って、かつてのヨーロッパを恐怖のど
 ん底に…って、せ・ん・ぱ・い!!」
「!」
 振り向きざまに怒鳴られて、先輩はちょっと驚いた様子だった。
「ったくいつの間に後ろに回ったんだか…それより、作業! どうしたんですか!?」
「………」
………こくり
 とぼとぼとパソコンの元へ行く先輩。
…ちらり
 一瞬だけこっちを向く。
「………」
とんとんとんとん
「………」
とぼとぼとぼ
 俺が腕組みをしつつ足を揺らしているのを見て、観念したかのように機械に向かう。
「ちょっと可哀想みたいです…」
「あのなぁ…このままじゃ俺達、帰れないんだぞ。大学の人間だって困るし」
「でも、でも」
「…解った解った。ったく…お人よしもたいがいにしてくれっての…」
 そう言いつつ俺は、先輩に近付く。
「ん、ま…あれだ。先輩」
「?」
 先輩は少しだけ手を止めて振り向いた。
「そう言う話は、また今度じっくり聞くよ。その、今は時間が惜しいからさ…だから悪い
 けど、頑張ってくれるかな? 先輩」
「………」
「え? ああ。ヒマな時だったらいつでも付き合うよ。リュース込みでな」
「…」
 リュースは窓辺で、こちらを見つつ微笑んでいる。
「………」
「ん? 質問がある? いいけど…」
 いきなり何なんだ。
「………」
「…今度の? え、あ、なにぃ!? …ま、まぁいいよ。オッケー」
「………」
「あ、ああ。そうだな…じゃ、頑張って」
こくん
 少しだけ嬉しそうにパソコンに向かい始めた先輩を置いて、俺はリュースの居る窓辺へ
 戻った。
「芹香さん、何か言っておられましたか?」
「…次の日曜日に降霊会があるから、是非お二人で来てください…色々とお教えします、
 だとさ」
「は、はぁ…」
 流石に困惑するリュース。それを見つつ俺は、今更ながらとんでも無い約束をしたよう
 な気がしていた。
 それと同時に、ふと忘れていた疑問を思い出す。
「まぁ、それはそれとして…リュース。忘れ物ってなんなんだ? 結局授業がなかったか
 ら解らなかったけど…」
「あ、はい、それは…あの…」
「?」
「…行ってきますのキス、ですぅ…」
 赤面してそう言うリュースを見つめつつ、俺は怒るべきか呆れるべきか突っ込むべきか
 抱きしめるべきか非常に悩んでいた。



                                   つづく

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