(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第二話
『ツルペタ元帥大弱り』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年11月24日(火)・天気・・・晴れ

 「名前・・・ですか?」
「そうだ、名前だ」
 二階の俺の部屋に、女の子が座っている。
 椅子に座って、床にちょこんと正座している彼女を見下ろすと、
 「やっぱ可愛いわ、こいつ・・・」
 とか不覚にも思ってしまう。
 本来こう言う状況は、無条件で喜ぶに値するものだとは思う。
 思うが・・・
「昨日は(交通事故による)局地的な停電が起きてお前を起動できなかったり、予想通り金
 剛石頭な親父を説得するのに時間を費やしたからな・・・」
「・・・お手数かけますぅ・・・」
「いや、今更そんな事はいい。問題なのは・・・」
「なのは?」
 今、首を傾げているこいつが俺個人の所有物になったって事は・・・俺の東京行きは、こ
 いつと一緒って訳だ。
 ずっとつるむ事になるかと思うと、正直うざったさも出てくる。
「・・・俺の精神衛生上、お前をなるべく無機質な存在としては扱いたくない。」
 恐らくこいつの製作者であろう、「G・N」さんとやらの約束だしな。
「故に、現時点よりお前はメイドロボットとしてでは無く、一個人として我々の家族の一
 員になってもらう!」
「はい!」
「分かったか!」
「いいえ!!」
 ・・・
 どこかでウグイスが鳴いたような気がした。
「・・・返事は良いな。」
「ありがとうございます。」
 気づけ。
 皮肉だ。
「・・・つまり、お前は今日から家の『家族』だって事だ。」
「えぇっ!!そ、そんな恐れ多い・・・」
「その方が、こっちも遠慮無く接する事が出来るしな。」
「そ、そうですか・・・それじゃあ・・・」
 きちんとまとめていた足を、あぐらのような形に崩す。
「おう兄ちゃん、小遣いくれや。諭吉三人でえぇからよ〜」
どげしっ
「ひいーん、か、踵を落とさないで下さいぃ・・・」
「こんダアホが!今日びヨタ者の弟でも、もちっと礼儀をわきまえとるわ!」
「え、で、でも、データによると、こう言う行動も親愛の情のあらわれだと・・・」
「何に書いてあるんだ!何に!!」
「『○○組・実録極道日記』ですぅ。」
ずげしっ
 二発め。
「デ、データが飛んじゃいますうー」
「そんなデータ、ミサイルに括り付けて太平洋にでも飛ばしとけ!」
「そ、そんなぁ・・・一応精密機器なので、あんまり乱暴に扱わないで下さいぃ。」
「おいおい馬鹿言うなよ、メイドロボがこれくらいで壊れる訳・・・」
 俺がそう言うと、
「・・・・・・」
「?」
 こいつはとたんに、下を向いて黙り込んでしまった。
「わ、私・・・」
 心なしか、言葉が震えている。
「・・・い、いえ、何でもありません!・・・そうですよね・・・これくらいで壊れるなんて、そ
 んな事・・・ありませんよね・・・」
「・・・・・・」
 悲痛な顔が、俺の胸を軽く痛ませる。
「いや、だから・・・名前!そう、名前だよ!」
「あ、そう、そうでしたよね!」
 普段の調子に戻ったらしく、思い悩んだような表情も笑顔に変わる。
「だ、だからさ、家族を形式番号なんかで呼ぶのもなんだし・・・」
「でもでもご主人さま、私には、固有の機体番号と名称がありますけど。」
「『HM−12V7』と『バリュースター』ってんだろ?」
「はい。」
 一息ついて、答える。
「呼びづらい。」
「はぁ・・・」
 まぁ、機械だからな・・・ここらへんの感覚が分からないのも仕方ない。
「やっぱりそう思いますか。」
 分かるんかい。
「あ、あぁ・・・」
「私もそう思っていました。何でもっと言いやすい名前にしてくれなかったのかなぁって・・・」
「舌でも噛んだか?」
「はい。五回ほど。」
 チョロロロロ・・・コンッ!
 何処かで鹿脅しが高らかになった。
 何処だろう。
「慣れると言う事を知らんのかお前は。」
「変ですねぇ。」
 笑ってんなよ。
 変なのはお前だお前。
「・・・まぁ良い。」
 これ以上付き合ってると、夕方になって学校へ行く時間になってしまう。
「とにかく、速急に愛称候補を決めて、その中から一番親しみやすく、かつ、違和感の無
 い物を選び出す・・・つー訳で、V7(仮)」
「はい?」
「愛称の候補はあるか?」
「あります。」
「まぁ、そうだろうな。いや、いい。ひょっとしたら候補があるかな、と思って聞いてみ
 ただけ・・・」
 ・・・って・・・
「あるって!?」
「はい!」
 嬉しそうに大きくうなずく。
「元帥さんが『こんな事もあろうかと』って、いくつか候補を入れておいてくれたんで
 すぅ。」
「ヤ○トの技術者か科○隊の武器開発者みたいだな。」
「真○さんの空間○力メッキとか、○デ隊員のペン○ル爆弾みたいですねぇ。」
「・・・・・・」
 足を上げかけ、三度目のヒールストライクを見舞ってやろうかと思ったが・・・
 やめた。
「隕石バリアとか宇宙語とかそう言ったたぐいの・・・何ですか?」
「い、いや・・・」
 まあいい。
 話が早く進むならそれにこした事はない。
 現に、俺にはあまり時間が無いのだ。
「じゃあ、何個あるのか知らないが・・・適当に言ってみろ。」
「はいっ!」
 嬉しそうに検索に入るV7(仮名)。
「では行きます・・・作品ナンバー1番」
「番号まではいっとるんかい。」
「『ばりゅ子』」
「却下」
 所用時間0.5秒。
「・・・・・・」
「・・・V7(仮名)、無言で不満気な顔をするな。」
「そんな事ありません。」
「じゃあその眉間のしわを何とかしろ。」
「作品ナンバー2番。」
「無視しやがったな。」
「『ほし子』」
「却下」
 0.47秒。
「・・・うぅ・・・」
「だからその顔をやめろ。」
「えーと、『バリュースター』の『スター』の部分からインスピレーションをとった、非
 凡な作品で・・・」
「説明にとりかかっても無駄だ!」
「・・・ふえぇぇ・・・」
「泣くな!次、次!」
「ぐすっ・・・ご主人さま、あんまり簡単に却下しないでくださぁい・・・」
「・・・検討してやろう。いいから次だ。」
「はい・・・作品ナンバー3番『バリュバリュ』」
「大却下だっ!!」
ばんっ!
 俺がキーボードの横を叩くのと、V7(仮名)の大きな瞳から涙がこぼれるのは、ほぼ同
 時だった。
「阿保ぅ!そんな悪の改造人間みてぇな怪しげな名前使えるか!!」
「どちらかと言うと不思議獣では・・・」
「どっちでも良い!却下だ却下、だーい却下だ!!」
「ふえぇーん、そ、そんなぁ・・・名前の候補は、これが最後ですぅー」
「・・・あの人を一瞬でも信じた自分が馬鹿だった・・・」
 己の愚を呪いながら、沸き上がってきた頭痛に頭を抱える。
「あ、あのぅ・・・」
「うっ・・・何だよ。」
 遠慮がちに俺を見上げる仕種は、やはり凶悪に可愛い。
「や、やっぱり、ご主人さまの決めた名前なら・・・何でもいいと思います。」
「ほぅ。」
 俺に忠誠を尽くすって訳か・・・感心感心。さすがメイドロボだな。
「そのほうが、ご主人さまもやりやすいと思いますし・・・そ、それに・・・」
「うん?」
「・・・そのほうが・・・何だか、本当の家族になったみたいで・・・うれしいです。」
「・・・・・・」
 気恥ずかしげに微笑みながら、俺の表情を伺う。その姿とその言葉に、俺は早くも誓い
 を忘れている自分に気が付いた。
 ・・・忘れてた。
 こいつを、メイドロボットとして扱わない・・・そう決めたばかりじゃないか・・・
「そう、か・・・よし、今日、学校から帰ってくるまでに俺が考えておこう!」
「え、は、はい!よろしくお願いしますぅ。」
ぺこり。
 正座したまま深々とお辞儀をする。行儀が良いのはいいが、この勢いでは名前を決定し
 ようものなら土下座だってしかねない。
「そんなにかしこまるな。お前の主人としての義務だからな・・・さてと。」
 ふと時計を見上げる。
 5:20
 そろそろ学校に向かわなければならない時間だ。
「じゃあ、俺は学校行ってくるからな。もう少ししたら父さんも母さんも、会社から帰っ
 てくる・・・そしたら、母さんに家の中の事でも教えてもらえ。」
「は、はい!そうします。」
「良し、いい返事だ。」
「えへへ・・・返事だけはいいですから。」
 ・・・分かってはいるんだな。
「ま、その返事に見合うようにがんばりゃいいさ。」
 まず、黒と青のディバッグを取って・・・
「はい、どうぞ。」
「お、悪いな。」
 ディバッグを受け取って、足早に階段を下りる。
 V7(仮名)は、玄関で俺を見送ってくれるらしい。
「免許もキーもOKっと・・・よし、行くか。」
「行ってらっしゃいませー!お車に気を付けて下さーいっ」
 ・・・いや、車に乗って行くんだが・・・
 まぁ、いいか。
「お名前、待ってますぅー」
「おう!楽しみにしてろ!」
 玄関から身を乗り出している彼女にそう言いながら、俺はけっこう幸せな気持ちで車の
 ドアを閉めた。


               # # #


 その頃、
 元帥はパソコンが起動せずに弱っていた。
「俺がオチかい。」
 そうです。



                               第二話 END



次回予告・リュース
 いい名前をご主人さまにいただいて、私もほっと一安心です。
 なんだか新しい名前でご主人さまに呼ばれるたびに、胸が少し熱くなるような・・・わ、
 私、ひょっとして、胸部冷却系が故障してるんでしょうか?あうぅ・・・
 次回、メカ耳少女の居る風景『夜更けの追憶』
 夜更かしも深酒も、体に毒です。



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