(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第三話
『残酷な元帥のテーゼ』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年11月25日(水)・天気・・・晴れ

 「る〜ん、る〜んる〜ん、るる、るるるる、るるるるん、るるるるんる〜んる〜ん、る、
 るーるる〜るるるるん。」
 夜の台所に、メイドロボの鼻歌が響く。
「えらくご機嫌だな、リュース。」
「え?」
 顔の所どころに泡をつけたまま、皿を洗う手を休めて振り返る。
「えへへ、やっぱりそう見えますか?」
「見えるどころの騒ぎじゃないぞ・・・ったく・・・命名してから、優に一日は経つって言うの
 に・・・そんなに名前がうれしいか?」
「はいっ!それはもう!」
 力いっぱい肯定する。
 『バリュースター』の前後をとっただけの安易な愛称だが、これだけ喜んでもらえるの
 なら良しとしよう。
「私、タイプコードと機体名でしか名前を呼ばれた事がないので、何だかとても新鮮で
 ・・・そ、それに・・・」
 それに?
「ご主人さまからの・・・初めての贈り物ですから・・・」
 頬の泡がピンクに染まる。
 白いワイシャツにチェックのスカート、それに白いエプロンなんて・・・ただでさえ凶悪
 な格好をしている上に、その表情ははっきり言って卑怯だ。
 反則だ。
 核爆級の破壊力だ。
「ま、全く・・・母さんから体よく皿洗いを押し付けられたってのに、いつまでもへらへら
 してんじゃない!」
「はい、今洗った所ですぅ。」
 テーブルの上に、プラスチック製のへらが二つ乗る。
「・・・何だ、これは・・・」
「夕方、蒸しパンを作ったんですが、その時にこのへらを使って生地を・・・」
 …「へらへら」ってか…
「あ〜分かった分かった!戻しとけ!」
「?は、はい・・・」
 不思議そうに首を傾げるリュース。
「・・・不思議なのは、お前の国語認識能力だよ・・・」
「何ですか?」
「え、あ、いや・・・母さんも父さんも、早く寝るようになっちまったなぁ・・・って思ってな。」
 そう言って、俺はコップに5mm程入っていたジンを流し込んだ。ビールや焼酎は好き
 じゃないが、この手のスピリッツなら結構いける。
「そう言えば、血圧がどうとか言っておられました。」
「末っ子の俺が、いつまでたっても自立しないからなぁ・・・苦労も多いんだろうな。」
「・・・でも、いい人です。お父さまも、お母さまも・・・」
 自嘲ぎみな笑みがこぼれてしまう。
「お人好しじゃなけりゃ、こんなろくでなし息子の大学進学を手伝っちゃいないさ・・・」
「そ、そんな・・・」
 洗い物が一段落したらしく、振り返って、泡まみれの手を拭いながら呟く。
「ご主人さまだって・・・いい人です。」
「どう、かな・・・」
「・・・?」
 俺が、久々にジンなんか飲んでいるのには、訳がある。その訳とは・・・昨日の夜と同じ
 事を、繰り返さないためだ・・・



 「あ、ありがとうございますぅー・・・」
 感激して泣き続けるリュースは、俺の部屋の椅子で休眠状態につくまでの半分を泣き通
 した。
 残りの半分は、テレビのドラマなどを熱心に見ていたらしいが・・・実の所、俺の代わり
 に両親とのコミュニケーションをとっていたのだろう。
 そんな夜中、
 トイレに起きた俺は眠り続けるリュースを見て、ある事を考えてしまった。
 「慰安機能」
 女性型である以上、そう言う用途があるのは知っていた。
 「使う事は無いだろう」
 と思っていたが、いざ実物を目の前にすると・・・
「・・・・・・」
 月明かりの中で寝息も立てずに眠る少女は、起きている時とは対照的な可愛らしさを持
 っていた。
 それに魅入られるように俺は、
 俺は、
 俺は・・・
 ・・・・・・
「・・・・・・!」
 気がついた時、俺はリュースの肩に手をやっていた。
 柔らかい。
 温かい。
 吐息が…聞こえる。
 その人間そっくりの少女の存在感が、俺を狂わせようとしていたのだ。



 昨日は無理矢理寝る事が出来たが、今日もそうとは限らない。
 自分が信用できない時というのはあるものだ・・・と、俺は己が身をもって知ったのだ。
「案外、俺は最低な人間かもな・・・」
「そっ・・・!」
すたすたすたすたすたすた
 足早に俺の横に立つ。
「そ、そ、」
「・・・?」
 興奮して、言葉がうまく出てこないらしい。
「そ、そんな事、ぜえぇーーーーったいに、ありません!」
「お、おい・・・」
 夜も十時を廻った頃に出す声量ではない。しかし、彼女の心情を計り知るには充分な大
 きさだ。
 それほど強く、リュースは何かを訴えようとしていた。
「ご主人さまは、絶対にいい人です!突然訪ねて来た私を、受け入れてくれましたし、私
 を、じ、自分のものだって、お父さまに、ち、ちゃんと言ってくれたし、愛称も、つけ
 てくれたし、そ、それに・・・」
 徐々に、声が涙声になってくる。
「は、初めて合った時も・・・メ、メイドロボとしてじゃなく、人間の、女の子のように、
 あ、扱ってくれました・・・倒れてしまった私を、や、やさしく、介抱してくれました・・・
 だ、だから!」
 次に言った一言は、俺にとって全く予想外のものだった。
「う、嬉しかったです・・・人の役に、立てなかった・・・さ、最低な・・・私とは・・・違います・・・」
「!」
 涙に混じって、しゃくりあげるような息遣いが聞こえ始める。
「リ、リュース・・・?」
「・・・実験機で・・・しかも・・・失敗作な私なんて・・・『最低だ』なんて言われて・・・と、とう、
 当然、です・・・は、廃棄されても、仕方、無いんです・・・」
 実験機
 失敗作
 そして、廃棄・・・
「研究員の皆さんも、い、言って、ました・・・お前は、もう、使われないだろうって・・・だ、
 だから・・・」
 俺は、この娘がここに来た理由が分かったような気がした。
 あの言葉の意味も。
「私・・・さ、最低・・・駄目・・・使え、ない・・・だから・・・」
 ・・・元帥。あんた残酷だよ。
 こんなに傷ついた女の子を、俺の所へやるなんて・・・
「や、役に、立たない、私、私は・・・」
 俺が出来る事なんて・・・限られているのに!
「は、廃棄されて、しまった、方、が・・・」
「馬鹿野郎!」
「ひっ!」
 叱られる。
 存在を、否定される。
 また。
 そう思ったのだろう、胸の前に握った手を凝視していたリュースは、
「・・・えっ」
 俺の腕の中で、驚きの表情を湛えた。
「ご、ご主人さま・・・」
「馬鹿野郎・・・自分の心を傷付けてまで、人に優しくしようとするなよ!お前は・・・そんな
 に・・・」
 リュースを抱く腕に、力がこもる。小さな少女の体の震えを止めるように。
「そんなに・・・強くないじゃないか・・・」
「・・・・・・」
 細い腕がゆっくりと下がり、同時に、震えがどんどん小さくなってゆく。
「・・・俺が・・・俺が、お前を必要としてやる・・・いや、」
 宣言するように、言い聞かせるように語りかける。
「お前を、守りたい・・・」
 俺の正直な気持ちを。
「だから・・・自分が、いらない存在だなんて・・・考えるな!」
「・・・ご主人さま・・・」
「これからは、俺達・・・なるべく、二人一緒に居よう・・・いいな・・・」
「うっ・・・は、はい・・・」
 昨日と同じように、
 しかし、
 今度はただの嬉しさだけでは無い涙を、リュースは流し続けた。
「う、嬉しいです・・・長瀬主任に拾ってもらって・・・元帥さんに、こ、心を、貰った時より
 ・・・うっ、も、もっと、もっと嬉しい、です・・・」
 俺の胸に顔を押し付ける。その涙は、機械の体が流しているとは思えないくらい感情の
 温かさにあふれていた。
「嬉しくて、嬉しくて、とっても嬉しくて・・・嬉しさで、中枢回路が、焼き切れちゃいそ
 うですぅ・・・」
 そんなリュースの言葉は、俺の中に何かを芽生えさせるのに充分だった。
「安心しろ。そうしたら、」
 その芽生えた想いに、誓う。
「絶対に直してやる・・・一生かかっても、な・・・」


               # # #


 その頃、
 元帥はパソコンが起動しない原因を、雨野の残して行ったフロッピーディスクのせいだ
 と知ってのたうちまわっていた。
「ぐはっ・・・へへっ、やるなぁ・・・丹下のおっつぁんよぉ・・・」
 誰やそれ。



                               第三話 END



次回予告・雨野
 全く、無邪気にもほどがあるってんだ!
 大体あいつは自分の事女だと思っていな・・・いや、たしかに人間じゃないから、厳密に
 は女じゃないかもしれないけど・・・でも、いい匂いがして、柔らかくて・・・あ〜あ、俺、
 まずいかも。
 次回、メカ耳少女の居る風景『つうじるということ。』
 通じやしないよ、だってあいつは・・・



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