(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第六話
『眠りの森の元帥』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年11月29日(日)・天気・・・晴れ後、吹雪

 「あれっ・・・あれ?・・・っかしいなぁ、あれ何処やった?」
 俺がそんな調子でパソコンの周りを懸命に探っていると、
きゅるるる
 ベッドの頭元にあるCDラジカセが、静かに起動し始めた。
胸に抱く正義の印、溢れる勇気が奇跡を呼ぶのさ♪
 9時に合わせておいたタイマーが作動して、力強い歌が流れ始める。
「もう9時か・・・あ、やべっ!」
鋼鉄の戦士、命を・・・ぶつっ
 2フレーズ目にしてやっと停止させたが、
「う・・・うぅーん・・・」
 時、すでに遅し。
「あ・・・ご主人さま、おはようございますぅ・・・」
「起こしちまったか。悪い。」
 ぼんやりした表情でベッドから身を起こすリュースは、寝相の関係か意図的なものかは
 知らないが、ピンクの寝間着の胸元がはだけかけていた。
 まったくもって、目の毒な光景だ。
「・・・あ〜リュース・・・まる見えだぞ。」
「え?」
 ぼーっとした瞳を虚空に泳がせて、彼女は手を布団からゆっくりと出して・・・
「大丈夫です。」
 自身の耳を探り、満面の笑みを浮かべた。
「センサーは外れていません。」
「・・・Aカップ。」
 ・・・・・・・・・
 きっかり五秒後、その笑顔がゆうぅーーーっくりと紅く染まり始め、次いで吸い込まれ
 るかのように布団をかぶり始める。
ぽすっ
 さらに、
 真っ赤な顔が布団の中に没して三秒ほどたったころ、
「・・・・・・ふえぇぇー・・・・・・」
 か細い泣き声が聞こえ始めた。
 どうやら意図的なものではなかったらしい。
「泣くなっ!!」
「ふえぇぇーーーん・・・」
 くぐもった泣き声は続く。
「泣くなっていっとるだろーがっ!!」
「ふえぇぇーーん・・・」
「・・・あのなぁ・・・」
「ふえぇぇーん・・・」
「・・・・・・」
 布団の端を持ち上げ、小声で囁く。
「俺は・・・ち、小さい方が好みだぞ・・・」
「ふぇ・・・」
 静寂。
ぬーっ
 亀か。
 そう呟きたくなるほどゆっくりした動作で、首を出す。
「・・・・・・」
じっ
 涙を瞳に溜めながら、上目遣いで俺の様子を見ている。
「本当ですか?」
 への字口が開かれる。
「・・・あ、ああ・・・」
 「所詮俺もつるぺた元帥と同類か・・・」
 そんな言葉が俺の頭をかすめる。
「俺は、小さい方が・・・好きだ。」
 モーフィングのように徐々に表情が変わる。いつもの、明るい笑みだ。違う所といえば
 ・・・その頬がいつもより紅くなっている事だけだ。
「えへへぇ。」
「ほ、ほら、起きたんなら早く着替えろ!」
「はーい。」
 全く、どこまで天然なんだか・・・
 そんな俺の動揺も知らず、すたすたと隣の客間に向かうリュース。
「さて、と・・・探し物再開ってとこだな・・・」
 引き出しを開け、
 本の山を調べ、
 雑多な書類の束の間を調べ始めた頃、リュースが深緑色のブレザーに着替えて戻ってき
 た。
「あれ?ご主人さま、何をお探しですかぁ?」
「ん、いや、元帥にデータを入れてもらったフロッピーが無くってさ・・・緑のラベルで
 『汎用』って書いてある奴なんだけど・・・リュース、見た事あるか?」
「んー・・・ちょっとお待ち下さい。」
 検索結果を待っている間も、探索は続ける。
「・・・いえ、それらしきフロッピーディスクは記憶にありませんが・・・」
「しゃーねぇな・・・まぁ、お前のメモリーに無いって言うんだから、間違いは無いだろ・・・」
 そこまで言って、俺はある事を思い立った。
「・・・なぁ、リュース。」
「はい?」
 こいつの記憶力は、どのくらいあるんだろう。
「お前の記憶って、どうやって処理してるんだ?まさか起動してからずっと記録し続けて
 いる訳じゃないだろ?」
「はい、充電中や休眠中に記憶の整理を行って、記憶するべき事だけ上位メモリーに保管
 するんです。だから、重要な事は覚えているんですけど・・・ちょっと見ただけの事は、
 ほとんど記憶から削除してしまうんです。」
「そこは、人間とあまり変わらないって訳か・・・」
「はい。」
 面白い。
 こいつがどんな事を覚えているか、チェックしてやる。
「リュース!第一問!!」
「え?は、はいっ」
「四日前の25日、その日の夕飯は何だったでしょう!」
「は、はい!検索しますので、少々お待ち下さい!」
 両のこめかみに人差し指をあて、目をつぶって熟考モードに入るリュース。
「・・・むーーー・・・」
 ・・・・・・さっきの検索より時間がかかっている・・・・・・
「・・・おい、分からないなら別に・・・」
「分かりました!!」
 俺の声を遮って、自信たっぷりにリュースが叫ぶ。
びしっ
 気合の右人差し指が天井を向く。
「麻婆豆腐と、ほうれん草のおひたしと、銀だらの粕漬けを焼いたものと、きゅうりの浅
 漬けと、えーと、えーと、あとは・・・」
「・・・・・・」
「そうだ!豆腐とゆり根のおみそ汁です!」
 勝者の微笑みに、俺は温かい言葉をかけてやった。
「蒸しパンだ。」
「・・・えっ?」
 笑みが凍り付く。
「蒸しパンを作りすぎたからって、晩飯が蒸しパンになっただろう・・・おまけに俺が帰っ
 た頃には全部冷めてたから、俺は牛乳でそれを無理矢理流し込んだんだ。」
「は、はうぅ・・・」
 手が下がるとともに、だんだんと哀しみの表情が浮かんでくる。
「・・・まぁ、だいだいどの程度の記憶力かは分かった。」
 人並みって訳だ。
 いや、ひょっとしたらそれ以下かも・・・ま、まさかな。
 まさか・・・
「な、なぁ、昨日の夕飯は・・・さすがに覚えているよな。」
「え?あ、は、はいっ!」
 名誉挽回、とばかりに大きくうなずく。
「では、」
「ふむふむ。」
「検索、いきます!」
「・・・な、何?」
 再び熟考ポーズに入るリュースを見て、俺は言いようの無い漠然とした不安が胸中に沸
 き上がってくるのを感じた。
「分かりました!」
「おう、言ってみ。」
「お好み焼きですっ!」
「・・・それを作ろうとしてことごとく失敗した結果、店屋物のラーメンをとるはめに陥っ
 た・・・が正解だ。」
「・・・・・・うぅ・・・・・・」
 がっくりと肩を落とすリュース。どうやら、失敗した時の記憶もついでによみがえって
 しまったらしい。
「ま、まぁ、記憶力だけが存在価値じゃないからな・・・」
 あえてそう言い切っておく。そうでなければ、またぞろこいつは際限無く落ち込んでし
 まいそうだからだ。
「で、でも、でも・・・」
 事実、もう半泣きが入っている。
「・・・じゃあ、何か覚えてる事はあるのか?」
「あ、は、はい・・・では、上位メモリーを検索してみま・・・」
 そこまで言うと、
ぽっ
 唐突にリュースの頬が染まる。
「?」
 いぶかしがる俺の顔を見て、恥ずかしそうに口を開く。
「じ、上位から、記録された事を検索していきます・・・」
「お、おう・・・」
 もじもじし続けて、肝心の検索結果とやらがいっこうに出てこない。
「どうした?言ってみろよ。」
「は、はい・・・」
 次の言葉を聞いた時、俺は軽いめまいに襲われた。

「ご、ご主人さまは、『お前を守りたい』って、言って、くれました・・・」

「あ・・・」
 そうか、
 こいつにとっての大事な事って・・・
「『なるべく、二人一緒に居よう』とも、言ってくれました。私が、壊れちゃいそうです
 って言った時、『絶対に直してやる、一生かかっても』って言って・・・優しく抱きしめ
 てくれました・・・」
 ・・・俺との、思い出なんだ・・・
「は、初めての時は、『お前を、愛したい。』って・・・」
 そこまで言った時、唇を人差し指で抑えた。
「ご、ご主人さま・・・?」
 俺がうな垂れているのは、がっかりしたからじゃない。今は・・・こいつの顔がまともに
 見られない・・・それだけだ。
「分かった・・・お前の記憶力が良いのはよっく分かった・・・だから・・・これ以上、言わなく
 て・・・いい・・・」
「ご主人さま・・・」
「お前の気持ちは、分かったから・・・」
「・・・・・・」
きゅっ
 俺の手を、柔らかく小さな両手が包む。
「・・・はい」
 しばらく、その体勢のままで二人は固まってしまった。少なくとも、俺の鼓動が収まる
 まで・・・俺達二人は、そのまま動かなかった。
「・・・今、何時だ?」
 予期せぬ質問に、少し慌てて答えを返すリュース。
「え?あ、はい・・・10時半です。」
 何に時間を費やしとるんだ・・・俺は・・・
 気を取り直して、顔を上げる。
「もう少しで開場しちまうな・・・最低でも、昼には出るぞ。」
「ああ、御出かけですか。」
 あっけらかんと答えるリュース。
「お母様は昨日、特に仕事関係の用事は無いと言っておられましたので、どうぞゆーっく
 り羽を伸ばして・・・」
「リュース、」
「は、はい?」
「・・・・・・」
 くそ、何緊張してるんだ俺は。
「き、今日は、元帥が即売会に出るんだ。」
「即売会・・・ですか?」
「自分で作ったものを売り買いする所なんだけど・・・元帥は売る側として参加するらしい。」
「えっ!」
 リュースは目を丸くして驚く。
「ゼロチさんを売られるんですか!!」
「違うっ!」
「じ、じゃあどなたを・・・」
「誰も売らん!他の人が物を売るのを手伝うだけだ!」
 一瞬、
 会議用の長い木の机にゼロチを横たえて「少女いらんかえ〜」と低い声でうなっている
 元帥を想像する。
 「少女いらんかえ〜何でも食べるよ〜これ以上大きくならないよ〜良くタマゴ生むよ〜
 ちゅるぺただよ〜」
 ・・・・・・・・・
「どうしました?頭痛ですか?」
「い、いや、自分自身の想像力に負けてな・・・」
「?」
 頭を抱えていると、リュースの心配そうな声が聞こえる。
「・・・何でもない。」
 気を取り直して、と。
「リュース。その・・・あのさ・・・一緒に、行かないか?」
「えぇっ!!」
 さっきよりもさらに驚くリュース。
 無理も無い、初めての「お出かけ」だからな・・・と思っていると、
「・・・い、」
「?」
「一生懸命やってきたつもりですが・・・やはり、至らなかったようですね・・・」
 涙と鼻水を流しながら風呂敷きを取り出し、メンテナンス機器を包んで背中にしょった。
 ・・・何故に唐草模様の風呂敷きなんて持ってるかなぁ、こいつ・・・
「短い間でしたが・・・お、おせ、お世話になりまじだあぁ・・・」
 頭を下げた瞬間を見計らって、背負った風呂敷きの包みをひょいっと奪い取る。
ぶんっ!
「ふあぁっ!」
 頭を上げた勢いで、大きく後ろによろける。
がっし。
「あ・・・」
 その頭をつかんで、一挙に俺の胸元に引き寄せた。頭ごなしに叱る体勢だ。
「・・・どアホかお前は!誰がお前を売りに行くといった!」
「え、で、でもでも、これから市場へ・・・」
「子牛を売りに行くんじゃねぇんだ!同人誌の即売会へ行くんだよ・・・お前と一緒に。」
「え、」
 ようやく言ってる意味が理解できたらしい。
「わ、私と、ご主人さまが・・・ですか?」
「女の子と行くには、ムードの無い所だけどな・・・ま、その後にお前の服を買いに行くっ
 て事で・・・どうだ?行くか?」
「え、そ、そんな・・・恐れ多い・・・」
「今更何言っても遅い。そう言う名目で両親から特別ボーナスかっさらって来たんだから
 な。」
「あ・・・」
 リュースは、昨日、母親が浮かべた笑みの意味をやっと理解した。
「・・・行こう、リュース。」
「ご、ご主人さま・・・」
 乱暴につかんでいた手をゆるめ、そのまま頭を撫でる。
「元帥に『元気です』って・・・伝えてやれ。」
「・・・はい。伝えてきます。」
 うっとりした表情のまま、両の頬に手をやって喜ぶリュース。
「とっても元気で・・・とっても、とっても幸せですって・・・」
「・・・よし、決まりだな。」
 横に寄り添って、小さな背中を叩く。
「母さんに言ってコートをかしてもらえ!今日は寒いぞ〜」
「は、はうぅ」
 そして俺は、リュースを伴って部屋を出た。
 楽しい一日になりそうだ。
 そんな確かな予感を感じながら。


               # # #


 ぴろろろろ、ぴろろろ、ぴろろろ、
 元帥の枕元の電話が鳴る。
ぴろろ・・・がちゃっ
 布団の中から出た手が、ゆっくりと受話器を取った。布団の中に消えてゆく受話器。
「・・・は〜い、私ポリンちゃん。今日はとってもご機嫌おねむで何が何だか分かんねぇや、
 てへへ〜」
 置かれようとしている受話器から流れ出る怒声を子守り歌に、再び元帥は眠りの縁へと
 落ちて行った。
 ・・・遅刻、確定。



                               第六話 END



次回予告・リュース
 今日は、ご主人さまとお出かけできてとーってもうれしかったです。
 そういえば、元帥さんとご主人さまが私の話をしていた時に「せいゆー」って言葉がよ
 く出てきてましたけど、服を買いに行ったのはダイエーでした。変ですねぇ・・・
 次回、メカ耳少女の居る風景『VOICEぱにっく!』
 あ、「言え!」って言う命令文ですか?でも・・・何を言えば?



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