今回のネタはマニアックです。ご注意下さい。
平盛○○年11月30日(月)・天気・・・大吹雪
「声の変更・・・ですか?」
「そうだ。」
何だか軽い既視感を感じてしまう会話を、寝る前の俺達はベッドの上で向かい合いなが
らくりひろげていた。
俺がこんな事を言い出したのは、昨日、こいつを元帥に直接合わせた時、
「音声の設定、変更しなきゃ駄目じゃん。」
と言われてしまったからだ。
「・・・そんなスットコドッコイな機能があるとは思わなかったからな・・・」
「一応、有名な声優さんのボイスデータがいくつか入力されてますから、変更は可能です
が・・・その中に、お気に召す音声があればいいのですが。」
「そう、か。」
俺もアニメに傾倒している人間だから、声優について多少の知識はある・・・が、所詮そ
れも「何も知らない人よりはまし」程度のものでしかない。
「ちなみに、今は誰の音声だ?」
「はい、今はゼロチさんと同じ、岩○潤子さんになっています。」
どうりで可愛い声だと思った。
「完っ璧に元帥の趣味だな・・・」
「基本らしいですぅ。」
「何の基本じゃい。」
まぁ・・・いつも一緒に居るんだから、自分の好みの声の方がいいと言うのもうなずける
所だ。
よし、
おれもひとつ、こいつの声を自分好みに調整してみるか。
「よし、お前の中に入ってる音声データを頭から言ってくれるか?」
「はいっ!」
相変わらずの元気な返事と共に、少し長い熟考時間に入る。
「検索、終了しました。」
「おう。」
「敬称略で言います。えーと、神○明、塩○兼人、○山敬、古○徹、玄田哲○、飯塚昭○、
○塚明夫、○寺宏一、小○清志、鈴置・・・どうしました?」
頭から布団に突っ込んでいる俺を気遣うリュース。どうせなら、他の事を気遣って欲し
い・・・
「サンプル音声で聞いてみますか?」
「あ、ああ・・・じゃあ、○谷明いってみようか。」
「はい、」
夜中の俺の部屋に、叫び声が轟く。
「チエェンジ・ゲッター1!スイッチ・オンッ!!」
うわー男らしい。涙が出るぜ。
「・・・次、玄田○章。」
「サイバトロン軍団!トランス・フオォームッ!!」
「古谷○。」
「僕が、僕がガン○ムを、一番うまく使えるんだあぁーっ!!」
「鈴置○孝」
「左舷!弾幕薄いぞ!なぁにやってんの!」
「塩沢○人。」
「あの壷はいいものだぁーっ!、」
妙にガ○ダムネタが多いな。
「・・・もういい。」
思わず頭を抱えてしまう。
「大丈夫ですか?ご主人さま。」
「小林○志の声で心配するな・・・○ビルの塔に向かいたくなる・・・」
偏頭痛がひどくなってきた。
「何でこんなデータしか入ってないんだ!女性はないのか女性は!」
「は、はい、あります!」
リュースは一息ついてから、サンプル音声を「叫んだ」。
「ザンボットォ・ムゥーン・アタァーック!!」
げしっ
「あぁぅっ」
間髪入れず、枕を顔面にぶつける。その下から聞こえたのは、いつものリュースの情け
ない声だ。
「じ、女性ですぅ。」
「大山のぶ○は認めんっ!!」
本気で頭が痛くなってくる。
「リュース・・・お前、何か俺に恨みでもあるのか?」
「えぇっ?そ、そんな事ないですぅ。」
「じゃあ、んーだそのラインナップは?あぁ!?何で○谷明とか○沢兼人の声の女の子と一
緒にいなきゃならんのじゃ!!」
「えぇーっ!お、お気に召しませんでしたか?」
「召すかっ!」
頭から断じられて、リュースはしきりに考え込んでいる。
「おかしいですねぇ・・・元帥が、『雨野は神○明系の声が大好きだ』って・・・」
「違う。」
即答0.5秒。
この即答具合も、我ながら既視感のもとだと思う。
「少なくとも、いつも一緒に居る女の子にしゃべって欲しい声ではない。」
「そ、そうですか・・・」
しょんぼりとするリュース。・・・ちょっと、つっこみが過ぎたかな。
「・・・すみません・・・」
「・・・あ、謝る事じゃねぇよ・・・別に、お前が悪い訳じゃないからな。さて・・・女性声優部
門、いってみようか!?」
「は、はい!」
気を取り直して。
「で、どんな声があるんだ?」
「はい、敬称略でいきます・・・岩○潤子、丹○桜、桜○智、国府田○リ子、久○綾、○上
喜久子、冬○由美、椎○へきる、笠○留美、宮○優子、島本須○、富○みーな、横山○
佐、白鳥○美、笠原○子、三○琴乃、南○美、富沢美○恵、鈴木○仁、吉田古奈○、横
沢○子、半場○恵、金月真○、鷹森○乃、生駒○美、本多○恵子、笹○優子、高○麗、
大谷○恵・・・」
「きりがないな。」
「はい、今ご活躍されている女性声優さんは大体入ってますから・・・あ、あと『別枠』と
『論外』が有ります。」
「『別枠』って?」
「はい、林原○ぐみさんは個人で5パターンありますから。」
「成る程・・・『論外』は?」
「田中○弓、野沢雅○、TA○AKO、大山○ぶ代、つかせ○りこ・・・」
「分かった、もういい。」
確かに・・・この面子での声は想像したくない。
「しっかし多いな・・・サンプル音声を聞いてるだけでも朝になっちまうぜ。」
「元帥さんの所にあった音声データの50%を持ってきましたから。」
「・・・これで半分かい。」
おそるべし、元帥。
「何つーか、こう・・・決め手が無いよな、決め手が。」
「決め手・・・ですか?」
「そうそう、『この声がぴったり!』てのが無いから・・・って、良く考えりゃ当然か。」
「?」
こいつのイメージから決めるんじゃなく、しゃべらせればそれがこいつの声になるんだ
もんな。
「よし!ここは運試しだ!!」
「な、何でしょう?」
「リュース、ランダムで音声を決めてみろ!」
こうなったらどの声も同じだ!
「え、は、はい!」
リュースは一瞬戸惑ったが、意を決したかのように下を向いて両のこめかみに人差し指
をあて続けた。
こいつお得意の熟考ポーズだ。
・・・・・・・・・
十秒ぐらい経ったころ、
・・・ふっ
顔を上げ、両手を膝に置いて微笑む。
可愛い表情だ。
「ご主人さま・・・だ、大好きです。」
ばごっ!!
「はうぅっ」
瞬間、
俺は枕を使ってリュースに見事なアッパーカットを決めてしまった。
ばふっ
倒れ込んだところから、
「・・・ひいぃーん」
いつものこいつの泣き声がした。
「悪いとは思う・・・思うがな・・・」
ぼふっ
力任せに枕をベッドに叩き付ける。
「ぬぁーーーーーーーーーにが哀しくてシャア・アズ○ブル声の池田秀○に告白をうけな
きゃいかんのじゃ!!候補から男性声優を外せ!」
鼻を押さえながら起き上がるリュース。
「け、けっこう勇気がいったんですが・・・」
「お前は真剣なのかも知らんが、その声に『俺もだよ』と答えなきゃならん者の身にもな
れっ!」
落ち着け、落ち着け・・・
「とにかく・・・女性陣に限ってランダム選択をしてくれ。」
「ふゃい・・・」
再び熟考モードに入ろうとするところに、
「『論外』も外してな。」
と付け加える。
「は、はい。」
熟考に入るリュース。
こいつがTAR○KOの声でしゃべる所なぞ、見たくないからな。
・・・・・・・・・
もう一度熟考に入って、十秒ほど経ったころ、
ふっ
顔を上げ、両手を膝に置いて微笑む。
・・・またとんでもない声だったら、強制電源落としの刑に処してやる・・・
そんな考えが頭をよぎった時、
「これでどうでしょう、ご主人さま。」
鼻にかかったような声が、俺の心臓をわしづかみにした。
「・・・・・・」
一瞬、完全に思考が止まった・・・それ程、その明るい表情に合った可愛らしい声だった
のだ。
「・・・ご主人さま?」
独特の抑揚が、より一層俺の鼓動を早める。
「あ、あぁ・・・それ、誰の声だ?」
「はい、こおろぎ○とみさんです。」
「そうか・・・」
運試しもしてみるもんだな・・・リュースにぴったりの声だ。
「よし、今日からそれがお前の声だ。いいな?」
「はい!分かりました。では・・・」
「?」
いそいそと、布団に潜り込むリュース。
「音声設定を全般的に変更いたしますので、8時間ほどお待ち下さーい。」
「へ?」
俺がその言葉の意味を理解した時には、すでにリュースは寝息を立てはじめていた。
野比の○太なみの寝つきのよさだ。
「・・・・・・」
まぁ、いいか。
・・・・・・
・・・でも・・・
いやいやいや。
よこしまな考えを振り捨てる。
「全く・・・」
リュースの横に入る時、
「おやすみぐらいは・・・言わせろよな・・・」
と、その幸せそうな寝顔に話しかけ、電気を消した。
# # #
「さ、寒い〜」
暖房の壊れた部屋で、元帥はベッドに潜り込んでいた。着ているものも綿入りはんてん
と厚手の靴下、とどめに二重のズボンと言う完全武装である。
「ゼ、ゼロチ〜早くお使いから帰ってこ〜い。人肌暖房してくれ〜」
その頃外では、
びゅおおぉぉ・・・
「ふえーん、吹雪が強くて、す、す、進めませーん・・・」
プリティな岩○潤子の泣き声が、悲しく吹雪にかき消されていた。
「ふえぇーん・・・」
びゅおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・
第七話 END
次回予告・雨野
リュースのやつ、さっさと寝ちまいやがって・・・まぁ、結局俺のせいなんだけど・・・しゃ
ーねぇ、明日は遊びたおすから覚悟しろよ、リュース!さーて、な・に・を・し・よ・
う・か・なぁ〜・・・って、俺はなに一人で盛り上がっとるんじゃあっ!!
次回、メカ耳少女の居る風景『Fight!Fight!Fight!』
それでは、メイドロボファイト、レディー・・・ゴォッ!!