(Leaf Visual Novel Series vol.3) "To Heart"Another side story

メカ耳少女の居る風景

第二十話
『おやすみ元帥』の巻

Written by -->MURAKUMO AMENO HOME PAGE -->SEIRYU-OU KYUUDEN

Original Works "To Heart" Copyright 1997 Leaf/Aquaplus co. allrights reserved


 この小説は、販売・株式会社アクア、企画・制作・リーフのウィンドウズ95用ヴィジ  ュアルノベル・ソフト「ToHeart」を基にした二次創作物であり、作中に使われる名称  は一部を除いてほぼフィクションです。  したがって、ゲームの公式設定・裏設定に準じた物語ではないために、誤解を招く場合  等がありますが、その場合はご容赦願います。  ちなみに、  この小説の中に出てくる少女たちと会いたいと思ってくれた方々には、つつしんで「探  せば会える」とだけ言っておきましょう。


平盛○○年02月18日(木)・天気・・・曇りのち晴れ

 喧騒に埋もれ始める駅。
「ずいぶん人が多いんですねぇ。」
「あぁ、俺達の居る旭川とは雲泥の差だな・・・さすがは東京ってところか。」
 夕暮れの押し迫る駅前で、俺とリュースは寄り添って歩いていた。
 今日、俺達が東京に来た理由はただ一つ、今年からの新居を探すためだ。
 当初は、
「ワンルームマンションでもいいだろ。」
 と思っていたが、2・3ヶ月前と違って、俺の生活設計の中にはこいつの存在が加わっ
 ているのだ。
「私なら、押し入れでもかまいませんが・・・」
 とかたわけな事をぬかすこいつを引き連れて俺は、二人で住むのに適当なところを探し
 に来た訳だ。
 しかし・・・
「いいとこ、見つかりませんね。」
「地獄の沙汰も金次第ってな・・・ちょっと条件が良くなると、すーぐ家賃も跳ね上がっち
 まう・・・ったく、困ったもんだ。」
「ご主人さまの甲斐性に合わせないといけませんからねぇ。」
 無言で両の頬をつまむ。
「いらひれふ、ごしゅりんはま。」
「悪かったな、甲斐性が無くって・・・」
「ほ、ほんなつもりでは・・・」
「んじゃどー言うつもりだ!言ってみろコラ!!」
「たらの、きゃっかんてきりりつってやふでふよ。(ただの、客観的事実ってやつですよ。)」
 素早くヘッドロックに移行する。
「く、苦しいです・・・」
「これからの生活も苦しくなるんだから、あいこだ。」
「そ、そ、そうですね、おあいこ、です。」
「お前な・・・」
 あまりの能天気さに拘束も緩む。
「ひーん、センサーがずれちゃいましたぁ。」
 耳元に手をやりながら、いそいそとセンサーの位置直しを行うリュース。
 そんな光景を見るたびに、こいつはロボット寄りなのか人間寄りなのか分からなくなっ
 てゆく。
「・・・ベクトルのつかめん奴だ・・・」
 間抜けな呟きも喧騒にかき消された。
 「・・・なく一番線に快速特急・・・行きが・・・」
 そんな中で俺の耳に届いた駅の放送が、人込みの増加を告げている。
「やれやれ、これ以上人が増えるのかよ・・・リュース、はぐれんなよ。」
「はーい・・・あぁっ!」
「んーだぁ?」
 リュースが目を見開いて見る方向には、一体のメイドロボットが居た。
「こんな所でお仲間に会うなんて、何だかすごい偶然ですねぇ、ご主人さま?」
「・・・う・・・」
「?ご主人さま?」
「・・・・・・うそ・・・だ・・・ろ・・・」
「?」
 リュースの言うとおり・・・確かに、凄い偶然だ。
 髪を彩る、はかなさを感じさせるような薄い青、
 瞳を染める、燃えるような紅。
 改札口から出てきたそのメイドロボは・・・あの大学受験の日、俺があの公園で出会った、
 「意志」を持つ少女だったからだ。
「な、なぁ、おい・・・」
 その少女に声をかけようとした刹那、

「ゼリオ!」

 一陣の呼び声が、風のように俺の横を通り抜けた。
「あっ・・・・・・マスター・・・」
 その風は、無表情だった少女の頬を軽く染め、その歩みを軽やかなものにした。
すっ・・・
 俺の横を通り抜ける『ゼリオ』と呼ばれた少女。
「!?」
 振り向いた俺が見たものは、少女の後ろ姿と、そのはかなげな体を抱き止める青年の姿
 だった。
「・・・はっ、なるほどね・・・」
 差し出しかけた手を頭にやる。なんともばつが悪い。
 青年の顔は良く見えないが、きゃしゃな体を包み込む両腕には一切の妥協の無い愛情が
 ある。
 しっかりと、
 しかし、優しく。
 温もりを伝え合うような抱擁は、一瞬だった様にも見えるし、長い時間だったようにも
 見えた。
「・・・お似合いのご主人・・・ってやつだな。」
「わたしも・・・そう思います。」
「リュース。」
 俺の横に寄り添うリュースも、その光景をうっとりと見つめていた。
「?」
 瞬間、
 俺達を見たような気もするが・・・ま、自意識過剰ってやつだろう。
 「・・・」
 「・・・」
 少しだけ言葉を交わしたその二人は、目の前に止まっている車に乗り込んだ。
「NSXか・・・いい車に乗ってんなぁ・・・」
 俺の下世話な独り言を背に、仲むつまじい二人の乗った車は我々の視界から消えて行く。
 その最後、助手席の窓から外を眺める少女の心は・・・
「・・・喜んでますね。」
「分かるのか?」
「はい。」
 リュースには分かったらしい。
 幸せな時間を、大切な人と共有できる喜びに満ちているのだろう。
 俺はリュースほど敏感じゃないけど、それだけは分かる。
 そして、
 あの青年も、きっと同じ想いを・・・
「ご主人さま。」
「え?あ、ああ、」
 リュースの言葉で夢想の中から引きずり出された俺は、気恥ずかしさでいっぱいになっ
 てしまった。
 まともにリュースの顔を見てしまったのも原因の一つだ。
「い、いや〜何つうか『ご馳走様』って感じだよなぁ、ホント。まだまだ冬だっつーのに
 暑いったら・・・」
「ご主人さまは・・・してくれないんですか?」
「え゛」
 あ・・・良く見るとこいつ、目に涙溜めてやがる・・・
「ご主人さまは・・・」
「・・・あほか、お前は・・・」
 頭を押さえつけるように、下を向かせる。
「あぅっ」
「俺だって、お前の事・・・好きだぞ。」
「は、はい・・・それは、分かって・・・」
「い〜や、その顔は分かっていない顔だ。」
ぱっ
「・・・あっ」
 頭に置いた手を放して、切符売場へと向かう。
「早く来い。」
「・・・はい・・・」
 うつむきながらとぼとぼと歩いてくるリュース。
「ったく・・・ほら、切符だ。」
「はい・・・あ、あれ?ご主人さま?」
「何だ?いちいち・・・」
「こ、これ・・・行く方向がホテルと反対なんですけど・・・」
 リュースに背中を向けながら、頭を掻いてつぶやく。
 昔、友人に教えてもらった情報。
「大河内君が言ってたな・・・ゆりかもめから見るレインボーブリッジは、とっても綺麗だ
 って・・・」
「え?」
 ・・・いつまでも背中を向けてる訳にもいかないな・・・
すっ
 リュースの左横に並んで、肩を抱く。
「あ・・・」
「不動産屋巡りは中止。一緒に夜景でも見に行こうぜ。」
「ご、ご主人さま・・・」
 赤く染まる頬が、俺の心も躍らせる。
「初めての、東京デートだな・・・」
「はい!私・・・とっても、とーっても嬉しいです!」
「・・・俺もだよ、リュース・・・」
 満面の笑みをたたえるこいつの頬に、軽くキスをする。
「あっ、」
「今はここまで。続きは・・・な。」
「・・・はい。」
 こいつがそうつぶやいて俺の体に身を寄せた時、その微かな温もりに俺は、言いようの
 無い安らぎを感じた。
 俺とリュース。
 あいつとあの子。
 きっと俺達は今日、お互いの想いをつたえ合うことだろう。
 それが不毛な事か、それが無意味な事なのか・・・その答えは、俺達自身が知っている。
 いや、違う。
 俺達の出す答えこそが、正解なんだ。なぜなら・・・俺達の気持ちは、俺達しか知らない
 から。俺達の心が感じた事だけが・・・真実だから・・・
 だから俺達は迷わない。
 この温かい安らぎと想いがある限り、絶対に・・・


               # # #


 雨野 「やった!余計なオチも無く奇麗に終わったぞーっ!!」
リュース「?」
 元帥 「ほほう・・・どういう意味かな〜」



                              第二十話 END



次回予告・兄貴
 え?俺?いやぁ、何で俺が予告するんだろうね〜っつーかしていいの?
 でもさぁ、俺ほら、元帥にプレゼントもらったばっかりだしさぁ、それに俺も色々とこ
 う、忙しくってねぇ…そう言えばさぁ、セレブって…え?時間無いって?
 あ、じゃ、じ、次回、メカ耳少女の居る風景『終わり、始まり。』
 あー緊張した…


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