平盛○○年03月05日(金)・天気…晴れ
冷たい風が、空港の前を足早に通り過ぎて行く。
バスを降りた俺とリュースは、その風の冷たさにさえ名残惜しさを感じていた。
「向こうに行ったら、もう暖かくなってるんだろうなぁ…」
「そうですね…」
互いに、しばし無言で空を見上げる。
「引越しも、書類の手続きも、全部終わったな…後は向こうに行って、新しい生活を始め
るだけだ…」
「…頑張りましょう、ご主人さま。」
リュースの笑顔が俺の迷いや不安を、優しく消してくれる。
「そうだな…さぁ、行こう。」
「はい…」
俺の傍に寄りそうリュースの肩を抱いて、俺は空港の中へと歩いて行った。
入口の前、ふと振り向いて今まで育ってきた街を見やる。
リュースは元帥に「…本当に、ありがとうございました。」と言った。
セレブは「私のマスターは、兄貴さんです」と少し嬉しそうに言った。
皆は、「たまには帰って来い。」と俺に言った。
その全てが昨日の事だ。
今日、俺はリュースと二人で旅立つ。
夢のために。
こいつとの新しい第一歩のために。
素直には言えなかった、元帥への感謝の言葉。
「…さよなら、元帥。リュースをありがとう…」
それをぼそっと呟いて、俺はリュースの方を強く抱いた。
「大事にするよ…絶対。」
「………」
寄り添って、俺のことを嬉しそうに眺めるリュース。
それに気付いて、照れ隠しに歩き出す俺。
自動ドアが開いて、空港の中へ踏み出した俺達。
もう、後は振り向かなかった。
# # #
青空を横切る飛行機雲を見上げ、空港の駐車場で元帥はタバコをふかした。
「行ったかぁ…」
「行きましたね。」
横に立つセレブは、名残惜しそうにいつまでも青空を見つめていた。
「どうでもいいけど、セレブ?」
「はい、何でしょう?」
「なーして君はいっつも兄貴の車を借りて来るかな!?」
元帥のワゴンRの後に、黒セダンが止まっている。
先日の空港にもあったそれは、間違いなく兄貴の物だった。
「…借りてはいません。」
「んー?」
「無断で持ち出しているだけです。」
「…帰れっ」
第二十一話 END
次回予告・雨野&リュース
リュース「次回はとうとう最終回です。ご主人さま、短い間でしたけど、お世話に…」
雨野(スパコーン!)
リュース「あうっ!メガホンで殴るなんて酷いですぅ!」
雨野「確かに最終回だけど、別にお前と離れるわけじゃねぇだろ!」
リュース「え?そうなんですか!?」
雨野「ああ、そうだ…でも……」
リュース「?」
雨野「次回、メカ耳少女の居る風景・最終回『メカ耳少女の居ない風景』」
リュース「え…?ご主人さま、それって…」
雨野「………リュース………」